着物騒動
新調した着物
ずっと前のことなのに、
世間が卒業式で沸いているので、
つい思い出してしまった。
子どもの中学の卒業式での話。
式典で着ようと思って、私は新しく着物を誂えた。
自分で誂えたのは初めてだったし、
一目ぼれの色無地だったので、ウキウキ気分で準備した。
そこへ母がやってきて、私の着物姿を見るなり、
「何?それ!?(ものすごく嫌な言い方)」
一瞬でイヤな空気になった。
孫の卒業式を見たいと言うので呼んだのだが、
断ればよかったと後悔した。
自分の価値観は絶対
母の言い方はこんな感じだった。
「私が持たせた着物はどうしたの! なんであれを着ないのよ! なに、その安物!」
事前に言っておかなかった私も悪かったが、
結婚前に揃えた着物を一度も着ないのならわかるが、
お宮参りや幼稚園、小学校と散々着ている。
それは母も見て知っている。
若い娘ならまだしも、その時の私は50手前のおばさんだ。
たまには自分で選んだものを着たっていいじゃない?
これから出かけようという時に、なんであんな言い方するかなぁ。
別に変な着物ではないし、変な着方もしていないし、特に安物でもない。
普通の地紋の入った色無地で子どもの式典には最適だし、
値段も一般的なものだった。
私は、色無地や付け下げのように大人しい着物とシックな色が好きなんだけど、派手好きで変わったもの好きの母は、色無地や付け下げが大嫌いで「安物くさい」と言って嫌っていた(絶対にそんなことはないが)。
母は自分が絶対に正しくて、自分の好みとは違う趣味を徹底的に批判し、絶対に認めない人だった。「単なる個人の好みだろ?」と思うのだが、母にはそれが許せなかったようだ。
「外見」にこだわる母
母が不機嫌になった理由はこんな感じだろうと思う。
「私がせっかく揃えてやったのに、なんで勝手に違うものを着るんだ! 私が何もしてないみたいじゃないか、しかもそんな安物を着て私に恥をかかせて!」
母は娘の「姿」にこだわる人だった。
服装や髪型が、似合ってるとか似合ってないとか安物だとか、
とにかく会った瞬間に、こちらの着ているものや髪型に何かしら文句を言う人だった。それは「一般的な価値観」とかではなく、母の独断と偏見からくる評価だった。
だからたまに、とんでもないものを勧めてくることがあった。
忘れられないのは、私が20歳の頃のこと。
ママ友が娘に毛皮のコートを買ったとかで、「あんたにも買ってやる」と言ってきたことだ。
「そんなもの、絶対に着ないから! 若い娘が毛皮のコート? まるで○〇の人だよ」と激しく拒否。
母はこの時は諦めたが、
私が拒否をしても勝手に買ってきて、「せっかく買ってやったのに!」と一人で怒ることもあった。
母は家族や他人の外見を無茶苦茶に批判するが、
基本的にTPOがグチャグチャな人なので、自分は式典に普段着に毛が生えたような服装で出かけたりするのだ。
人はダメでも自分は良いの? なのである。
最悪な気分だった式典
イヤな気分で始まった卒業式のその日、
母は私の着物には一言も触れなかった。
完全に無視。
しかもずっと何となく不機嫌。
自分の着たい着物を着ただけなのに、
そんなに気に入りませんか?
その後、
高校の入学式も卒業式も、母には声をかけなかった。
もうあんな嫌な思いはこりごりだったから。
自分の好み以外の物を一切受け付けず、
不機嫌をあらわにする人はほんとに疲れる。
これも「こだわり」と「執着」からきているんだろうか?