20数年前、夏の暑い日に出産をした。
そして産後鬱のようになった。
当時は「カンガルーケア」と言うのが流行っていて、
大雑把に言うと、
生まれたての子どもをお母さんが胸の上に抱いて、
肌と肌の触れ合いをする、というものだった。
それをすると、いわゆる「健康で健全で良い子」に育つらしいのだ。
私はちょっとした難産で、
出産した直後から半失神状態になってしまい、
何時間も子供を抱くことができなかった。
当然「カンガルーケア」なぞやっていない。
退院して自宅に帰った後、
新聞で件の「カンガルーケア」の記事を目にしてしまい、
突然涙が止まらなくなってしまった。
「この子はもう駄目だ。カンガルーケアをしなかったから、この子は健康には育たないに違いない」
という考えが止まらなくなって、絶望感でいっぱいになってしまったのだ。
軽い鬱状態だったのではないかと思う。
当時、流行っていたものがもう一つあって、
それは「母乳育児」だった。
「母乳で育てないとアトピー性皮膚炎になる」という”呪いの言葉”が流布していて、「何が何でも母乳で!」と新米母たちを脅迫していた。
夫からは「もうミルクでいいじゃないか」と言われているにも関わらず、
「イヤ、なんとしても母乳で」と夜も寝ずに数時間ごとの授乳に拘っていた人もいた。
実に気の毒である。
子どもに栄養を与えることができるのなら、
母乳でもミルクでもどっちでもいいのだが、
マスコミから流れる脅迫文に私もおびえていた。
私は母乳の出が悪く、早い時期からミルクに切り替えた。
だから世に流れていた「呪いの言葉」が怖かった。
「この子がアトピーになったら私のせいだ」と思い込んでしまい、
これまた涙が止まらなくなるのだ。
やはり鬱だったのではないだろうか?
出産した産院での「母親教室」で、
「育児本は読まない方が良い」としきりに言われた。
今その意味が良くわかる。
育児本には「脅迫」と「呪いの言葉」が溢れているからだ。
終わってしまえば「そんな事あるかいな」と思う事でも、
初めての育児という未知の世界に飛び込んだ新米かーさんにしてみれば、
どれもこれも「唯一無二の真実」に思えてしまう恐れがあるからだ。
(私はそうだった)
雑誌やTVなどのマスコミというものは、
「心配させて物を売りつける」のが商売なのであって、
接すれば接するほど不安が募る仕組みになっているのである。
だから、心が弱っている時や迷っている時には、
なるだけ離れているのが良い。
子育て中もそうだ。
初めての子育ては、迷いや恐れ、不安が渦巻く。
そういう時にマスコミは禁忌なのである。
困った時には、公的機関の保健師や産院を頼った方が良い。
親や子供の状況に合った常識的な助言をくれると思う。
ふと思い出した昔のこと。
小さな事でいちいち悩んでいた時期だったなぁ…と。
あぁでも、今でもそうか、
ちいさなことでいちいち悩んで怖がってるよなぁ…
産後鬱というよりも、単なる私の性格なのかもしれないな。
因みに、
カンガルーケアもせず、ミルクで育った我が子だが、
アトピー性皮膚炎にもならなかったし、
普通のまっとうな大人に育っている。
…そんなもんである。