母はすぐキレる人だった。
自分が「イラ!」としたら即キレる。
道が渋滞しているとか、相手が自分が望むような対応をしなかったとか、寒い、暑い、肌がかゆい、着ている服が窮屈などなど…、そんなつまらんことが原因でキレる。
普通の人でも、体調が悪い時や機嫌が悪い時には、ちょっとしたことに「イラ! もう!!!」となるが、母は基本がそれ。前頭葉が働いてないのか?と思うくらい。
自分のイライラをまき散らし、周りの空気を最悪なものにしておきながら、本人はケロリとしている。「私、何か言いました?」みたいに速攻で忘れる、と言うか、そもそも悪いと思っていない。
悪いと言う自覚がないから、所かまわずにキレる。
一番驚いたのは、自分の父親のお通夜でキレた事だった。母の兄弟が父親の事を「おじいちゃん」と言ったと言ってキレたらしい。「おじいちゃんっていうほどの年やないわ!!」って。
祖父は62で亡くなったのだが、62歳はまだ若いと。若くして亡くなったのに、あんた(兄弟)は『おじいちゃん』と言った、イラ!!!」という事らしい。
祖父と同居していた叔父には子供がいて、だから祖父のことを『おじいちゃん』と普段から呼んでいた、ただそれだけのこと。
母は自分の「かなしい」って気持ちを、八つ当たりでキレ散らかすことでしか発散できない厄介な人だったのだ。
そう言えば、私の結婚式でもキレられたわ…
私のメイクが遅いと言って、メイク室で担当の人にキレてた。
多分、ゲストの人たちに、苦手な愛想を振りまくのに疲れたんだろう。それで「いつまで用意してるんや、早く来てお客さんの相手をしろ!」ってことなんだろうと思う。
やれやれ…
大人に対してもこうだから、自分の幼い子供に対する「感情のぶちまけ」はすさまじかった。
それは「叱る」とか「注意する」とかいう、親の態度ではない。自分の腹立たしさを発散させているだけとしか思えない、「ギヤァーーー!!!!腹が立つーーー!!!」という状態だった。「大きな声を出したもん勝ち」と子どもに平然と言うような人だったから余計だ。
5歳か6歳の頃、母に髪の毛を掴んで引きずり回された記憶がある。図鑑を投げつけられたことも覚えている。
子どもが、そこまでの悪さをすることはない。私は大人しい子供だったので尚更だ。
原因は些細な事だったと思われる。読んだ本を片付けてなかったとか、本を読んでほしいとせがんだとか、そんな事だったような、うっすらとした記憶がある。
母は常々、誰も自分の味方をしてくれないことを不満に思っていて、「私がなよなよした大人しい性格やったら違うんやろな」と恨みごとを言っていたが、そういう事ではないのだ。
性格がどうとかの問題ではない。あなたのそのデリカシーの無さと、所かまわずキレ散らかすことに、周りはみんな辟易しているんだよ。
「気の荒い5歳の男の子」
母は、そういう人だった。
大人でもないし、女性でもない。扱いの大変な、大きな子供だった。